ハッピードムドム by完全にノンフィクション 小野恭介

完全にノンフィクションというバンドのドラムスでございます。バンドのことをより楽しんでもらえればハッピーです。ドムドム。

ベストアクト

  今までのベストアクトがどのライブの演奏だったかと言うと正直全然記憶になくて、ただこの日は良かったとか調子悪かったとかアクシデントが起こってまともな演奏にならなかったとか、全員が身体が軽くて集中できて練習通りのかっこいいと思う完ノンのライブができたとかお客さんが盛り上がってくれてバンドが想定以上にグルーヴしたとか、セットリストや繋ぎが秀逸だったとか、ボイスメモに残っているライブの録音を聴けば記憶もよみがえるし出ている音で大体わかる。ずっとやっている曲なんかは毎回同じに聴こえるけど一粒一粒の音の鳴りは絶対に同じではないからそういう聴き方をすればバンドをやっていない人でもわかる。

  自分たちがあんまりやなぁと思ったライブが観ていた人からたくさん好評をいただいたり、自分たちが今できる最高のアクトをしたと思っても誰も評価してくれなかったり、というのはライブをしたことがある人なら誰でも経験があることだ。ベストアクトの、何を以って「ベスト」なのかは時と場合による。

  自分の演奏には全然満足していないけれど最近は楽しいなぁとライブ中に思うことが増えた。完ノンに入った当初と比べると元々の性格までは変わっていないのでライブへのモチベーションは同じだが自分の出す音の役割というのがだいぶわかるようになったし出せるようにはなったと思う。まだまだ全然満足はしていないけれど。もっとうまくならななぁと思うそれが、テクニカルなことだけではなくて単純なビートでもうまいへたがあるようにその差が何なのか考えながら過ごしています。考えるというのは頭で言葉にしていく理詰めの作業のことじゃなくて耳とか肉体が鳴る音に感応するように維持している状態です。

  少し前になるけれど別所君と散歩して、この話をした。いろんな話をしたけれど、この、音の話が一番グッときた。物凄く共鳴しているのを感じた。僕らは元々友達で、僕は彼が誘ってくれたからスタジオに入るようになった。そこから多分三年くらいは経ったけど、友達歴はもう十五年になる。三年前なんてつい最近だ。だけど一緒にいて一番盛り上がるのがこんな話なんて、それってすごいことなんじゃないかなと思った。歩き回りコンビニをハシゴして酒を買い、自販機で変なチューハイを買ってげらげら笑ったり、同じ街の違う区画をぐるぐる歩いたり、気ままに生ビールと餃子を食いに行き、追加で瓶ビールと餃子を食い、店を出てここどこやねんと叫んだり、公園で憤りを語ったり昔話をしたりもしたけれど、その日一番盛り上がり共鳴したのはバンドの音の話だった。それは紛れもなく魂の交感だ。なんで?とこうやって書いたり振り返っている時は思う。それはね、バンドが今を生きてるからだよ、とスタジオに入り音を合わせるとバンドが教えてくれる。あ、そうか、今は過去じゃないんや、誰も過去にはいないんや、と気付く。でも本当にちゃんと気付けているのは、身体がそうなっているのは、音を出している時や真剣にバンドの話をしている時だけだ。とても不思議な、変な関係だ。

ところで最近はよく散歩をする。本当にもう、ほとんど毎日、狂ったように散歩している。時間はあまりかけずに、夜帰る前に、疲れているので無理のない距離を、気ままにコースを決めて気軽に缶ビールなどを片手に。しかしそれでも散歩に狂っていると言える。なんだか取り憑かれたように夜中徘徊しているやつがおるで、と自分で自分を道路を挟んだ向かいの歩道から眺めている感覚がある。まともか異常かなんてどうでもいいけれど。こんなにも散歩をするのは外に出ると歩きてぇと思うからなのだが、やっぱり僕はこの季節が好きなのだ。

別所君と散歩したのも気候が良いからだった。
また行こうな、と言って別れた。こないだのスタジオでもまた散歩しよなと言った。早く散歩に行きたい。