ハッピードムドム by完全にノンフィクション 小野恭介

完全にノンフィクションというバンドのドラムスでございます。バンドのことをより楽しんでもらえればハッピーです。ドムドム。

南海電車 - 2018 Re:TAKE

  2018年9月7日『Re:青版』が配信されました。

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1、南海電車 - 2018 Re:TAKE
2、アイスキャンデー - 2008 TAKE
3、natsu-no-omoide
4、DRUNK DAYS
各200円(税込)
全配信サイト、全ストリーミング媒体にて配信中。


  1曲目、南海電車という曲について、とても思い入れがあるので書きます。

  この曲は10年前に発売した曲の再録バージョンとなってまして、これまでにも(2013年頃だったか)一度再録されていて、ライブ会場限定販売の『裏・この音源は完全にノンフィクションです。』というアルバムに収録されました(実はアイスキャンデーも。このアルバムも幻の音源と言える)。
  なので通算3テイク目ということになります。
  曲の構成や歌詞に違いはありません。
  しかし音の感じは全然違います。
  あと初代を原曲とするならば再録の2つはそれぞれ新たに音が足されていて、聴きごたえが増しています。

   私、小野は10年以上前、当時のライブで初めてこの曲を聴いたとき、まず歌詞にぶっ飛んだ。探してみたら過去のブログに歌詞が掲載されていたので載せますね。

  以下、南海電車の歌詞。
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓


午前11時半
期末テスト終わって開放感

午後12時
飛び乗る南海電車、最寄りの駅までお願いします

午後12時半
「お昼ごはん何かな?」
「そうめん冷えてるよ。」

カルピス飲み干して友達の家まで走り出す


人前であのコは泣かないんだってさ。


地元の友達は今だにたむろってるのかな?
子供が友達おっかけて今、目の前、こけた。
地元の友達は、

...そっか

もう母親なんだな。

改札抜けて
晩ごはんの匂い、住宅街



wrote by hidekazu bessho



  なんというか、視点がどこにあるのか。
  完全にノンフィクションはこの頃からこういう一人称視点ではない歌詞を書き始め、歌声は別所英和でも歌詞の語り手が別所君自身ではない何者かに感じたり、時折これは本人の等身大の視点やなという箇所が出てきたり、徹頭徹尾風景が羅列されているだけのものもあったり、と、それは今でも試行錯誤が続いているが当時の私にはちょっと不思議な感じがして、自分自身も別のバンドをやっていたし歌詞にわかりやすく「ぼく」とか「おれ」が出てこない20代前半のロックバンドはちょっと周りにも見当たらないのでこれは只事ではない、と思った。

  そして音と相まって情景が浮かんでくるような曲が昔から好きで、私はこれは期末テストが終わったばかりの電車通学してる女の子が主人公だと思って聴いていたのですが、この少ない言葉数で表現される感情の機微も良い。
  そして中盤の、

  人前であのコは泣かないんだってさ。

  これを言っているのは誰?
  ちょっと不思議な感じがする。
  唐突に別所英和が出てきて注釈を入れているにしても、それとも誰かがこのコの噂話を囁く声だとしても、なんか不思議。こわくもある。そういう「わからなさ」が面白いんだよね、と今なら言えるが当時は言葉になっていないのでこれは只事ではない、音で映像をやってる感じやな、と言葉になっていないものだから説明になっていない言葉しか出てこなかったがとにかく感覚的に刺さった。

  描かれている情景が進んでいくテンポもサウンドに合わせて移り変わる。序盤はゆったりと、中盤は目まぐるしく、終盤はたんたんと。歌詞は読むと一定のスピードで安定して読めるが歌われると入ってくる情報が自分のテンポで処理できないからこの3パートは全然違う曲に聞こえる。感じている1秒の長さが別物になる。


  個人的に1番好きなのは冒頭の歌詞。

  期末テスト終わって開放感

  この、かーいほーうかん、の後の、
  バァーン!というバンドサウンドが、
「ーー夏休み、始まる……!」
  みたいな感じでパッキーンと7月後半の真っ青な空が眼前に広がっているように見えてワクワクするから好きです( ※あくまで個人の感想です。が、聴いたことない人は是非聴いてみて下さい)。
  この感じは10年前も高校生だった頃までの感覚を思い出させたし、10年やそこらでは色褪せなくて、34歳になった今でも思い出す。夏休みなんかないのに。

  私はこの曲で完全にノンフィクションのファンになり、その前から毎回ライブは観ていたから態度としてはこの前後で何も変わらなかったけれど、認識は「友達のバンド」から「好きなバンド」にはっきりと変わったのでした。





  さて、そんなわけでこの度南海電車を録音することになり、率直な感想は「マジか……」でした。
  録音が決まる前からライブでやるようになっていましたがキッカケは私が個人的にこの曲のドラミングを会得したくてスタジオで練習していた動画を別所君に見せたことでした。

「あ、ほなもう出来そうやな。ライブでやろう」
「マジで?」

  と、この時もこんな調子でしたがそれ以来気を引き締め直して練習しましたね。
  自分で蒔いた種、という諦めではなくどうも完全にノンフィクションにとってこの曲は重要で、原点の1つであると。そしてやるほどにその実感は増すばかりで、詳しくは別所君のブログに書かれていましたが「過去の完ノンの再現」ではなく当時の感覚を憑依させて今の完ノンで同じようにやる、過去として扱わず10年前と同じテンションで演奏する、という肉体ごと10年分タイムスリップさせる荒業でもって完全にノンフィクションな世界がある、いや、10年経った今も世界にはこういう少女がいてこういう情景がある、と思うのでそいつを断言するような演奏表現をする、ということですね。

  こうしてライブではやらなくなっていた曲が再びレギュラーにカムバックする出来事自体元ファンとして胸熱ですね。燃えます。
  10年前の小野に言ってやりたい。
「お前の好きなこの曲な、10年後もライブでやってるし、再録して発表されるで」
「嘘やん」
「いや、ホンマホンマ」
  私は、お前がドラムやるんやから、なかなか大変なんやから、今からドラムの練習始めとけや、と言いたくて仕方がないがリリースできた経緯や今感じている喜びや感慨深さを思うとこれはこれで何物にも代え難いことなのでニヤニヤしたままその場を立ち去る。それに自分が完ノンに入るなんてまったく夢にも思っていないあの頃の私の生活も、全力で完ノンを応援してたあの気持ちも何物にも代え難くてそれもいい。と今ならそこもすくって10年分の思いを込めて言える。南海電車はめちゃめちゃいい曲ですよ。
  歌われているのはあの頃の南海沿線の風景の中にいた少女でもあるし、今の南海沿線の風景の中にいる少女でもある。
  まだの方は音源是非聴いてみてください。
  そしてライブに来ていただいて音源よりもっとすごい「かーいほーうかん」の後の、

  バァーン!!

  を体感してほしいですね。